編集者 序:超実践マニュアル 乳腺検査

 このたび,待望の『超実践マニュアル 乳腺検査』を発刊することができました。VERSUS研究会では,2005年の第 3回マルチモダリティシンポジウムで“乳房のイメージング”と題して,乳房検査に関わるモダリティについて採り上げました。そのときの内容は,「シンポジウム 1 乳房撮影の現状と問題点」,「シンポジウム 2 手術シミュレーションにおける CT,MRIの役割」でした。特にシンポジウム 1では,「ディジタルマンモグラフィは本当に診断に有効なのだろうか」といった議論がなされていたことを思い出します。アナログ世代の私にとっても,マンモグラフィがディジタルに移行して現在の診断能が得られるのだろうか,というのはかなり大きな問題でしたが,アナログシステムで撮影したことのない,今の技師さん世代には隔世の感があるでしょうか。このシンポジウムは,私が座長を担当させていただき,またこれを機に VERSUSの世話人となった思い出深いシンポジウムでもありました。参加者も予想を大きく上回り,途中で通路に椅子を並べて対応したほどでした。

 そして昨年(2013年)の第 11回マルチモダリティシンポジウムで,本書の執筆者の 1人でもある松原馨先生を当番世話人として,再び乳房を取り上げました。今回のテーマは,「乳腺を診る」〜進化した乳腺画像診断を“検証”する〜,でした。シンポジウムは,前回のように 2つに分けることなく,マンモグラフィ,乳腺超音波,乳腺 MRI,CT,PETが同じ土俵で VERSUSを行いました。

 乳腺の画像診断は急速に進化し続けています。8年前には,乳腺の画像診断といえば中心はマンモグラフィと超音波。もちろん今でもそれに変わりはないのですが,マンモグラフィにも超音波にも新しい技術が導入され,診断方法にも変化が起きつつあります。また乳房の MRIや PETも,広がり診断や治療方針の決定において大きな役割を果たしています。

 本書は,マンモグラフィ,乳腺超音波,乳腺 MRIを中心に,基礎編,実践編に分けて掲載しました。それぞれのモダリティを専門に担当している技師だけでなく,1人でさまざまなモダリティに関わっている方,他のモダリティも勉強してみようと思っている方にぜひ読んでいただきたいと思います。

 他にも,乳房の基礎として解剖や乳癌取扱い規約に基づく乳腺疾患の分類,乳癌診療ガイドラインの CQ(Clinical Question)と推奨グレード,主な疾患別の画像や病理所見などを掲載しており,乳房に関する幅広い知識を得ることができると確信しています。また,第 11回マルチモダリティシンポジウムで会場の方からいただいた質問とシンポジストの先生からの回答も併せて掲載させていただいています。

 乳癌が,日本人女性の癌罹患の第 1位で,年々増加し続けているなか,私たち技術者はこれらのモダリティのパフォーマンスを駆使して,治療につながる情報を提供していかなければならないと痛切に感じています。そのとき,この本が傍らにあって,検査のお役にたてていただけるのであれば,こんなにうれしいことはありません。私たちの技術によって 1人でも多くの方の命を救い,1人でも多くの方の QOLが向上することを願うばかりです。

 最後になりましたが,Q&Aにご協力いただいた,第 11回マルチモダリティシンポジウムのシンポジストの先生方ならびに本書の校正にご協力いただいた VERSUS研究会世話人の皆様に,この場をお借りして御礼申し上げます。


2014年3月吉日
西出 裕子