はじめに:放射線災害と医療 2

 第16回放射線事故医療研究会は,15年ぶりに当研究会発祥の地,放射線医学総合研究所(以下,放医研)に舞い戻って,放医研の明石真言会長の元で開催された.会長が選択された会のメインテーマは開催地の回帰に符合するが如く,「緊急被ばく医療の原点へ戻る〜次世代へのメッセージ〜」というものであった.福島原発事故から1年半を経て,緊急被ばく医療活動という意味では漸く落ち着きがみられるようになり,事故後の医療活動の検討も色々な学会等で取り上げられてきている.

 このテーマの背景にある会長の意図は,福島原発事故の経験を踏まえて,原点に立ち戻り緊急被ばく医療とは何か考え,どのような医療提供体制が望ましいか,またそのための人材育成はどうあるべきかを議論し将来への課題を提供することと思われる.実際,今回の研究会のプログラムをみると,基調講演として「緊急被ばく医療の過去,現在そして未来」と題してわが国の緊急被ばく医療体制整備の歩みを代表幹事が回顧することに始まり,福島原発事故での放医研の活動,放医研モデルに基づく住民の外部線量評価が報告され,人材育成・確保と福島原発事故の現場対応の二つのシンポジウムが組まれた.前者のシンポジムでは,東海村臨界事故以降,主に文部科学省の委託事業としてさまざまなレベルの被ばく医療研修が原子力施設立地道府県で実践されてきたこと,また現在では国立大学においても卒前,卒後教育の中で被ばく医療が取り上げらていることなどが報告された.後者のシンポジムでは,昨年の本研究会での議論に続き,今回も福島原発事故の現場での対応と課題が議論された.福島原発事故での被ばく医療対応については,当研究会でも引き続き検討して行く所存である.

 原子力安全委員会が消滅してしまった今,今後の緊急被ばく医療体制の議論は原子力規制委員会の「緊急被ばく医療に関する検討チーム」で行われてきている.しかし,検討チームの論点整理(第4回配布資料)を見る限り,そもそも緊急被ばく医療の何たるか,わが国の緊急被ばく医療体制が整備されてきた経緯,地域の医療機関の諸事情等についての十分な理解が,原子力規制委員会側に欠如しているように思われる.
 これらの課題は,他のどの学術集団よりも緊急被ばく医療という応用医療により強い関心を持ち,かつまた緊急被ばく医療の知識と経験のより多い蓄積があるわが研究会こそが議論し,広く社会に対して提言するべきことである.
 当放射線事故医療研究会が「日本放射線事故・災害医学会」へと発展的に組織替えすることが総会で承認されたので,当刊行物は放射線事故医療研究会としての最後の活動の記録となる.

平成25年1月
放射線事故医療研究会
代表幹事  前川 和彦