はじめに:放射線災害と医療

 わが放射線事故医療研究会は1997年に設立されました.1999年9月30日に起こった東海村臨界事故については2000年の第4回の研究会で,また2004年8月9日に起こった美浜原発事故については同年の第8回の研究会で,それぞれの会のメインテーマ,緊急報告などの形で話題にしてきました.つまり,本研究会は低頻度の事象である放射線事故の経験を,情報を,その都度,医療の立場から研究会での議論等を通じて会員相互で分かち合い,放射線事故に関する知識を拡げ,意識を高めあってきました.

 いうまでもなく平成23年3月11日に発生した東日本大震災とこれに続く東電福島第一原発事故は未曾有のsevere accidentであり,地域住民に対する放射線防護上の対応ではこれまで私達が予想し,準備したものを質的にも量的にも凌駕したものとなりました.

 事故発生約5か月後に開催された第8回本研究会では,事故直後からの住民対応,事故直後のオフサイトセンターでの活動,小児甲状腺モニタリングの結果,飲食物の放射能モニタリングの考え方,サイト内作業者の健康管理の実態,地域二次被ばく医療機関福島医大の活動,住民に対する放射線サーベイの実際等が個別に発表されました.また,パネルディスカッションでは,避難所活動,特に放射線サーベイ実施あたっての問題点,安定ヨウ素剤については配布,投薬体制の問題,原発内・外の医療体制,放射線影響に関するワン・ボイスの問題,これからの緊急被ばく医療の課題等,幅広い範囲の議論が行われました.

 しかし,事故が未だ収束せず,事故原因が十分に検証されていない段階での議論であり,議論の元になる基礎データについても不十分なところも見られますが,それはそれとして事故後約6か月の時点での医療の立場からの総括として,記録しておくことが重要と考えられます.

 今回,医療科学社のご厚意により第8回放射線事故医療研究会での議論の記録がMOOK として上梓される運びになりました.会を代表して感謝申し上げます.ここでの議論が今後,見直しが図られるであろう原子力防災体制,緊急被ばく医療体制に生かされることを期待しつつ…….
平成24年2月
放射線事故医療研究会
代表幹事 前川 和彦