あとがき:改訂版 PACSの構築と運用のすべて

 本書の初版が出版されてから約4年が経過しました.この間のPACSを取り巻く環境も変化しました.機器(ハード)は高速化しながら価格が低下しました.われわれの施設でも2008年5月にPACSの全面的なアップグレードを行いました.今回の内容もアップグレード中の経験やアップグレード後に合わせたものとなっています.アップグレードにより読影医1人,1日300件程度までの読影が可能となりました.これはハードの高速化だけでなく読影システムに工夫を凝らした結果と考えています.無駄なクリックや表示ウインドウの展開を抑制したため標準的なWindowsのアプリケーションと操作性の異なる部分もありますが,1年次研修医(2週間ローテーション)も取り立てて説明なしに使いこなしています.プロの道具として一定のレベルに達したものと自負しています.今回のアップグレードではRISのベンダーが変わりました.細かな点での修正は必要だったものの,変更当日より変更前とそれほど変わりなく運用可能でした.IHE-Jを含めた標準化作業の恩恵ではないでしょうか.

 さまざまなガイドラインもこの数年でどんどん変化しました.個人情報保護の流れも加速しました.初版の脱稿直後にガイドラインの変わったものもあり驚いたものです.うまくいっている部分も多いのですが,ときどき困ったことも起きているようです.特に個人情報保護では,「外部施設紹介に際し,DICOM画像から識別可能な情報をすべて消去した.紹介先から問い合わせがあった際,どの画像のことを指しているのかわからなかった」,「外部委託検査の検体に,通し番号だけ付けて搬出している.取り違えがあったとしても確認の手段がない」といった話を聞きました.営利企業がアンケート等の目的で集め,一度きりしか使わない情報と,何度も参照し将来にわたり利用すべき医療情報を同列に扱うことに無理があるように思うのは私だけでしょうか.もちろん無理解や不注意による漏洩はいけないと思いますが,現場での解釈の混乱や過剰反応も窺えます.もう少し現実的な線に落ち着いてほしいと願うばかりです.

 すでにPACS,電子カルテを導入した施設で「ハードの面倒を見る部所はあるが,運用に関わる部分を相談する組織がない」といった話も聞きます.ガイドラインが作られても現場の放射線科医,事務職に十分伝わっていない可能性があります.ガイドライン自体はインターネットで参照できるのですが,各所に分散しています.すべて施設の自己責任とはいえ,どのガイドラインを最初に見ていいのかすらよくわからない状況です.これからPACSを導入する施設だけでなく,既存の施設に向けても啓蒙活動が必要と思われます.

 IT化,PACS導入の目的はもちろん患者サービスの向上と医療の質の向上ですが,読影医を含め,関係するスタッフが疲弊しては長続きしないものになります.今後IT化がさらに円滑で安心,利便性の高いものになるには,実際の利用者の視線からの議論が盛んになる必要があると思います.

(武中泰樹)