はじめに:Radiological Expert ラジオロジカル エキスパートへの道

 現在の医療はまさに高度画像診断機器を駆使した画像検査による診断と高度放射線治療機器を用いたがん治療の時代であります.次々と学際分野において研究開発された最先端技術が医療分野に導入されており,画像診断機器の高性能化,医療機材の多機能化,病院情報のネットワーク化が進み,画像診断情報のポテンシャルを高め,検査治療成績を飛躍的に向上させています.

 画像検査では3テスラMRI装置,64chCT装置,PET-CT,FPD搭載X線装置等が普及しております.私たち診療放射線技師はそれらの医療機器を駆使して,患者さんの病気を治癒させるために必要な医療情報を読影し,診療に必要な2D・3D・4D画像や計測データを提供しています.また,放射線を用いたがん治療の分野では放射線治療計画をはじめ,治療機器の品質管理に努め,高精度のがん治療技術を提供しています.このような診療放射線技師の業務内容を踏まえ,平成21年度の関東甲信越放射線技師学術大会の大会テーマは「専門技師の役割と未来“極める!”」とさせていただきました.

 いま私たちには国民からこれまで以上に質の高い検査治療技術の向上が求められております.私たちは医学関連学会と共同しながら,マンモグラフィ検診撮影認定者,放射線治療品質管理士,放射線治療専門技師,磁気共鳴専門技師,核医学専門技師,血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師,消化管専門技師,肺がんCT検診認定技師の育成を行い,医療水準の確保と均霑化を行ってまいりました.学術大会では専門技師として活躍されている皆様方にその分野において極めた技術を会員にわかりやすく講義していただくとともに,その分野における未来技術の在り方を熱く語っていただきました.

 本書では,『Radiological Expertへの道』の総タイトルのもと,講演会での講師の情熱が伝わる工夫とともに内容をさらにきめ細かくわかりやすく記述していただきました.また,診療放射線技師をどのように育成したらよいかという視点から「職場における生涯教育」についても掲載しました.職場教育に悩んでいる管理者のお役に立つ内容と思っております.さらにフューチャーセミナーとして「真のチーム医療に向けた現行資格法制の再考」を取り上げました.医療現場では医療チームはあるがチーム医療での動きが少ないといわれています.真のチーム医療を実現するには何が必要かがわかりやすく述べられています.

 昨年7月,保健師助産師看護師法及び看護師の人材確保の促進に関する法律の一部が改正され,平成22年4月より新人看護師の臨床研修が努力義務化されました.その背景として,看護基礎教育終了時点の能力と臨床現場の乖離,新人看護師離職率が9.2%と多く,医療事故に対して重大な責務を自覚しなければならないため,医療事故を起こすことへの不安を感じているがあげられています.この背景は新人の診療放射線技師にもいえることであり,全ての医療専門職種にもいえることであります.新しい時代に対応できるそれぞれの医療専門職を育てていくためには,テクニカルスキルの向上だけではなく,法律の改正も視野に入れていく必要があり,その役割は診療放射線技師会にあります.

 本書は医療専門職を目指す診療放射線技師のお役に立つとともに,職能団体で活躍されている皆様方のお役にも立つものと確信しております.

 最後に,貴重な画像診断機器装置の写真や技術資料を提供していただいた関連機器メーカーの方々に感謝を申し上げます.発刊にあたり,本書の編集にご尽力いただいた医療科学社スタッフの方々に深甚の謝意を表します.

2010年3月
社団法人 東京都放射線技師会
会長 中澤 靖夫