自  序:頭頸部・口腔細胞診アトラス

 細胞診検査は,病変を推定する簡便な病理学的検査法として現在,さまざまな臓器・組織に応用されている.

 一般的に口腔領域での細胞診では,感染症や白板症などの良性病変と癌との鑑別に応用されているが,口腔領域に発生する癌の多くは高分化な扁平上皮癌であり,前述の良性病変にみられる異型扁平上皮との鑑別においてはその診断に携わる細胞検査士や細胞診指導医がしばしば苦慮しているのが現状である.また,頭頸部における穿刺吸引細胞診は,近年の超音波機器の発達により,従来の盲目的穿刺吸引から主にエコーガイド下穿刺細胞診に変革しており,頭頸部の穿刺吸引細胞診を診断する場合は,同部位の解剖学的知識や超音波所見の理解力も必要となる.さらに頭頸部の穿刺吸引細胞診は甲状腺,唾液腺,リンパ節など多種の臓器・組織が対象となり,それぞれには多種多様の病変が存在し,口腔領域同様,細胞検査士や細胞診指導医が診断に苦慮する分野である.

 しかし,これまで口腔病変の擦過細胞診や頭頸部臓器・組織(甲状腺,唾液腺,リンパ節)の穿刺細胞診は総花的な教科書の一部に取り上げられているのみで,この分野の細胞像を中心として,かつ詳細に記載した書籍はみられない.本書は頭頸部の穿刺吸引細胞診を解剖学から超音波像,超音波像から病理組織所見,さらには病理組織所見から細胞診所見と系統的に取り上げている点,また鑑別診断のフローチャートを提示したのも今までの清書にはみられない特徴の1つである.耳鼻咽喉科領域の細胞診をほぼ全て網羅しており,また稀少症例の掲載は必要最小限に留め,日常経験することの多い病変のさまざまなパターンの細胞像を掲載し,実践に即したアトラスとした.この領域の細胞検査を行うものにとっては必読の書となり得るものである.

 本書が口腔領域の細胞診や頭頸部穿刺吸引細胞診に携わる細胞検査士や細胞検査技師を目指す臨床検査技師の必須の教科書として,また細胞診専門医・指導医や医師の現場で役立つ実用書として,また座右の一冊としてご利用いただければ幸いである.

 終わりに,本書の編集作業については,多くの方がたに多大の協力を得たことを付言し感謝する.

 さらに,医療科学社の古屋敷信一社長,実務担当の斎藤聖之氏に本書の出版に多大のご支援をいただいたことに深く感謝する.

2009年2月
太田 秀一