推薦:放射線科医のものの見方・考え方

 単純写真の読影のためのHow toものは世にあふれている。しかし読影にいたるプロセスについて記載した本は少ない。単純写真の臨床的意義に疑問が持たれつつあるCT、 MRI時代において、もう 一度このモダリティについて考えてみようというのが本書の最もユニークな点である。

 著者である今西好正氏は、小生が聖マリアンナ医科大学の門をたたいた折にすでに放射線科研修医として一目おかれる存在であった。努力家でその博学ぶりには目を見張るものがあり、以後30年間、私にとってかけがえのない教師として何度も窮地を救っていただいた。今回定年退職を機に長年の経験を元に単純写真の読み方考え方についてまとめられたことにまず敬意を表したい。今西氏は日常診療重視の考えから対外的活動は少なくその知名度は決して高くはない。この場をお借りして氏について少し紹介をさせていただきたい。

 今西氏は1979年に聖マリアンナ医科大学を卒業され、その後Johns Hopkins 大学への留学を除いて一貫して大学病院とその分院に勤務された。学内の臨床医からは最も信頼される放射線科医として知られている。氏は単純写真の読影からMRI、核医学までモダリティのジャンルを超えるだけでなく、臓器も甲状腺など特筆する研究臓器以外もくまなく網羅するgeneral radiologyの数少ない具現者の一人である。特に教育には人一倍力を入れ、彼の読影端末の周りには昼夜を問わず常に研修医が集まり教えを請う姿を何度も目にした。学生教育においても氏の活動は熱心で、いかに学生に“画像診断に興味を持たせるか”について長年考えてこられた。その結果、この成書の本題である“画像診断に対するものの考え方”を伝えることをテーマとするようになったと拝察する。この考え方に沿って4年生の選択学習として“画像診断に関わる発生学・生理学・生化学”を担当し多くの学生に共感を得ている。氏の教育に対する成果は、ポリクリの学生を対象に2回行われた投票で2回ともBest teacher of the year賞を受賞という形で現れている。

 本書は、彼が長年培ってきた“見方、考え方を教えたい”という考えのもとに構成され、通常の教科書の構成とは異なっている。画像診断は国家試験でも多く取り上げられているため画像所見の記憶が学生にとっての苦行の一つである。本書は単純写真の読影に必要な基本的な知識が身につくように、読影プロセスを再現するように画像診断医の考え方を随所にちりばめる工夫がなされている。したがって初学者にとって“どうしてそんなことが見えるの、わかるの?”という疑問に答えるよう努力されている。

 本書を通読していくにつれ一つの読み物として楽しむことができる。学生、研修医はもちろんのこと、放射線医学を専門とし、特に単純写真の教育に携わっている先生方にも多くのヒントと情報を得ることができるユニークな内容である。本書により単純写真の読影に再度興味を持つ放射線科医が増えるとともに、未来の放射線科医の育成、発掘につながることを願ってやまない。
 最後に氏の意図を精一杯汲んでいただいた医療科学社の編集部の方々にお礼を申し上げる。


聖マリアンナ医科大学教授
日本放射線科専門医会・医会理事長
中島 康雄