現在の医療において,放射線・放射性同位元素の利用は多岐にわたっている。X線を用いた単純撮影やCTなどによる診断・検査,放射性医薬品を用いた核医学診断あるいは放射線や放射性医薬品を用いた病巣部の治療などさまざまな目的で用いられている。特にCTや放射線治療機器の進歩は目覚しく,より正確な診断や精度の高い治療に役立っている。またポジトロンCTを用いた核医学診断は広く普及してきており,今や医療の現場において,放射線・放射性同位元素は欠くことのできない存在である。他方,分子生物学での利用は限定的になってきてはいるものの,医学,薬学の進歩の基礎となるライフサイエンス分野における放射性物質の利用は,生体内分布実験などのトレーサ実験において未だ活発である。またこのような基礎研究の手段となる分析化学の領域においても,放射線等は有効なツールのひとつである。
このような状況下,放射線等を直接扱うこととなる医療従事者にとって,上記の全容を理解することは重要である。そのためには放射能の意味,放射線の性質,その測定法・利用法または応用といった領域を扱う放射化学の知識が必須となる。さらにこの知識を基礎とした医療用の検査機器や検査法の理解も不可欠である。また放射性物質の医薬品としての活用を理解するためには,放射性医薬品学の知識も欠かせない。
上記の学問をまとめるという意味を込めて,本書には『医用放射化学』というタイトルを付した。本書は,放射性医薬品を扱う資格を有する薬剤師および診療用の放射線機器を扱うことになる診療放射線技師を目指す学生に,この「医用放射化学」の基本的知識を習得してもらうことを目的として企画されたものである。編集にあたっては,できるだけシンプルで見やすくなるよう,基本スタイルとして各項目が左右見開き2頁を1セットとし,それを超える場合であっても2セット4頁以内に収まるよう工夫した。その際,左頁には文章を,右頁にはその内容をわかりやすく表や図,箇条書きなどで整理した「ポイント整理」を掲載し,教科書とその講義ノートが左右でセットになっているイメージで編集した。なお,薬剤師および診療放射線技師の両国家試験における関連項目は網羅するように心掛けた。さらに,発展的な内容を記した「知識を広げる」欄も随所に掲載し,より高度な知識を習得したい学生の学習の助けにもなるよう配慮した。
本書が,薬剤師,診療放射線技師を目指す学生の勉学に役立ち,医療従事者の育成教育に少しでも貢献できれば幸いである。読者諸賢より,本書の誤りや不適切な表現などお気づきの点をご指摘いただき,さらに理解しやすいテキストとして改善を図っていくつもりである。何卒忌憚のないご意見をお寄せ頂きたくお願い申し上げたい。
最後に,多くの無理なお願いにも快く応じて頂いた執筆者の先生方に深く感謝申し上げる。また,医療科学社齋藤氏をはじめ本書の出版に多大なご尽力をいただいた関係者の方々に心より御礼申し上げる。
|