消化器疾患の診断を1. 安全に2. 苦痛なく3. 迅速に4. 適切に行うには超音波検査が適しているのは周知の事実である.上腹部痛で受診した場合には上部内視鏡との組み合わせで外来受診者の95 %以上が1 時間以内で診断が可能となる.下腹部痛で受診した場合にはまず婦人科疾患と虫垂炎の除外診断を行うのに威力を発揮してくれる.また,安全で苦痛を伴わない検査のため病変の経過観察にも適している.
著者の杉山高氏はこの超音波検査の機器の開発とともに歩み,そのつど新しい装置の可能性を求めて超音波検査の再現性のある診断法を開発してきた先駆者である.それは前著の『表在エコーの実学』(2008 年 医療科学社)の序に記したように氏の30 年間の真摯なたゆまぬ努力によるものと信じている.その名人芸ともいうべき腹部の走査法を上腹部,下腹部について“の”の字2 回走査法の開発により,腹部食道,胃,肝臓,胆嚢,胆道,膵臓,腎臓などの観察のみでなく,子宮,卵巣,膀胱,前立腺,腸管なども診断の対象にし,しかも体系的,総合的な腹部超音波の診断法として普及させてきたことに氏の偉大さがある.
本著は『実践腹部エコー』(1988 年),『腹部エコーの実学』(2005 年)の精神を引きついでいるものの2 つの大きな特徴がある.一つは読者によりわかりやすく病変を描出する方法が提示され,何々の見方,何々の描出の仕方というhow to を意図されている点である.二つ目は潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)や感染性腸炎などの項目が新しく取り入れられている点である.患者数が年々増加傾向(両者合わせて2007 年には13 万人近くに達している)にあり,当院がこれら難治性疾患の専門病院ゆえに以前から氏に依頼していたものである.回腸末端部の病変の有無や活動期,寛解期の鑑別や病変の伸展具合を簡便にチェックするのに大変重宝している.本著が消化器疾患の日常診療において座右の書となることを信じて疑わない.
|
平成21年 元旦
浜松南病院 消化器病・IBDセンター長 |
花井 洋行 |
|