初版 発刊に寄せて:マンモグラフィ技術編 改訂増補版

 このたび,医療科学社より石栗一男編著『マンモグラフィ技術編』が発刊されることとなった。本書は,乳癌の画像にこだわり続けた編著者が,これから乳房画像に従事しようとする,あるいは現在従事している診療放射線技師に対し,乳癌とは,乳房画像とは,そして,診療放射線技師とは,を伝えるべく,多くの時間をかけ,また,同じ目標をもった多くの協力者によって編纂されたものである。

 本書は,単に画像を作るために必要な事項を書き集めたものではない。本書に徹頭徹尾一貫している姿勢は,「良い画像を作る」であり,そのために必要な事柄についての知識やノウハウを徹底的に検討し,伝えていこうというものである。良い画像を作るためには,乳房の解剖や生理も,乳腺疾患の種類やその病理をも知る必要がある。乳癌の治療法全般的なことを知れば診療放射線技師としての対応にも幅ができる。さらに,マンモグラフィ以外の検査法,特に超音波検査は臨床的にはマンモグラフィと対をなす検査法であり,その概略を知っておくことも必要であるとする姿勢から,明確な超音波の知識を整理して掲載された。

 しかし,何といっても,本書はマンモグラフィの本である。基礎的事項である特性X線,X線管をはじめとする装置の解説,画質に影響するさまざまな因子と画質評価に用いるファントムや線量評価についてなどの知識の整理,フィルムと増感紙の特性を踏まえたうえで,高精細・高コントラストのマンモグラムを常に高品質に保つための品質管理が重要であることなどがわかりやすく,楽しく,実際的に展開される。画像が多く採用されている点も,読んでわかりやすい。

 最も期待されるのは,撮影法の章である。著者は,乳房の解剖を知りつくし,また,さまざまな状態の乳房撮影を経験したうえで,いかに情報を画像に映し出すか,を解説する。乳房の可動域と適正な圧迫,それを獲得するためにいかに受診者へ働きかけるかは,撮影の基本であるとともに,また,限りなく高度な撮影技術である。常にブラインドエリアを意識しつつ,いかに多くの領域を画像に写し出すか,実践のなかで獲得した知識が展開される。

 さらに,追加撮影法については診療放射線技師のあるべき姿を追求してやまない姿勢がにじみ出ている。「情報量に関していえば標準撮影が良好なポジショニングか,不良なポジショニングかでも差異を生じることになり,後者では………追加撮影の頻度が高まる傾向になる。」「追加撮影本来の目的は,それを行うことで情報を増やし,治療に貢献し,患者のQOLに寄与することである。そのためには,得られた画像を理論的に分析し,求められる情報が何であるかを考えながら段階的に検査を進める必要がある。」と述べられている。それを実現するためには,単に撮影するだけでは充分ではない。異常に気がつくこと,それが何であるかを判定し,その本来の姿を描出すること。気がついた異常をいかに認識するか,いかに表現するか,そのためには,マンモグラムの読影法を習得することも必要である。これをよく描出するためには,乳癌の発育の仕方やさまざまな病理組織像を知ること,そして,最も適した追加撮影法を知り,使いこなす必要があることが述べられている。

 最後には,困ったときの「トラブルシューテイング」。だれでも,いつ,トラブルに巻き込まれないとも限らないわけで,さまざまなトラブルを想定し,豊富な経験でその解決を図る。

 このような内容から,本書は,読めば読むほど,また,困ったときほど,本書のもつ豊富な知識の有難さを痛感するであろう。ぜひ,座右の書として繰り返し繙かれることをお勧めする次第である。


2004年9月

国立病院機構名古屋医療センター 遠藤 登喜子