序:中国の核実験

 私の終生の研究対象である核爆発災害の研究は、広島の空中核爆発災害調査から始まり、ソ連のセミパラチンスク核実験場での地表核爆発災害、ビキニ被災のあったマーシャル諸島での15メガトン地表核爆発災害の調査と、現地調査が続いた。そして、とうとう隣国中国の核実験の調査となった。

 中国政府は第三者調査に対し現地を公開しないばかりか、長年、公式に実験事実および周辺影響を開示していない。調査としては極めて困難な状況にある。そうしたなか、現地訪問をしないかたちで、中国の核爆発災害の真相に迫った。それは、北西に国境を接するカザフスタン調査時に入手した科学報告書のデータを鍵にし、核爆発災害の科学理論による現地ウイグルの被害評価をするという手法である。

 実験場は、日本文化に大きな影響をもたらしたシルクロードの要所であった楼蘭の近くにある。日中の国交が1972年に再開し、日本人が好んで訪れる観光地でもある。筆者も、若いころに井上靖氏のシルクロードを舞台にした小説を読んでいたが、よもやそうした地で、中国が核実験を行っていたとは驚かされた。公共放送でも、しばし、この地の文明の遺跡を紹介してはいるが、この種の話題に触れることはなかった。

 英国では、1998年8月に、中国の核実験によるシルクロードにおける悲惨な死を主題にしたドキュメンタリー「Death on the Silk Road」が放送されたと聞く。この番組は、欧州諸国をはじめ83か国で放送され、翌年、ローリー・ペック賞を得た。しかし残念ながら、私は、日本で放送されたのを知らない。はたして、この番組は放送されたのだろうか。まだ見てはいないこのドキュメンタリーだが、本書は現地ウイグル人の悲惨な死に対して、最初の科学根拠を与えるものとなるであろう。


2008年5月
高田 純