序:表在エコーの実学

 エコー検査は体外からプローブを当てるだけで容易に検査でき,非浸襲的なので安全で副作用もほとんどないことから,医療現場で最も頻繁に行われている検査である。操作が容易といっても,診断可能な画像を的確に描出するためには正しい解剖学的知識と病態生理学的な理解が必要である。最も重要な点はCTやMRIなどによって得られる画像と違い,目的とする画像描出をするのに検査施行の技量に大きく依存している点である。つまり病変の見逃しが起こりうる検査である。

 開発当初の画像から年々技術革新が重ねられ,今日では固い骨に囲まれている頭部を除けば,ほとんどの部分がエコー検査の適応となると言える。1970年代のリアルタイム式電子スキャンの開発,1980年代のカラードブラ法,1990年代のハ一モニック画像,造影エコーなどである。その開発の歴史と共に歩み。そのつど祈しい技術による装置の可能性を求めてエコー検査による診断法の先端を走ってきたのが著者の杉山高氏である。

 杉山高氏はコンタクトコンパウンドの走査による超音波検査の時代から名人芸ともいえる画像を描出してきた。それは一朝一夕に成されるものではない。深い解剖学的な理解と疾患に対する知識,そして幾度となく行われた手術標本と描出された画像との照合作業の賜物である。そんな氏の真蟄な姿勢を私は約30年近く見てきた。

 杉山氏の大きな功績の一つに検査施行者の技量に大きく依存してしまうこ超音波検査を短時間に,簡単にしかも見逃しをできるだけ少なくするための走査法“の”の字走査法の開発と普及がある。腹部超音波検査において上腹部と下腹部の2回の“の”の字走査により肝臓,胆のう,膵臓,脾臓,腎臓などの観察のみでなく子宮,卵巣,膀胱,前立腺,消化管など全体を観察する方法である。その成果は過去に何度も上梓されてきた。その集大成とも言えるべきものが『腹部エコーの実学』(2005年,医療科学社)である。その氏が今回『表在エコーの実学一乳腺・甲状腺・その他』を上梓することとなった。この書も氏の生来の探求心による試行錯誤に裏づけされた珠玉の書である。30歳代〜40歳代の乳がん検診の超音波検査の位置づけが確固たるものになってゆくであろうし,この書が乳腺,甲状腺の超音波検査法のバイブルとなってゆくことを確信している。守備範囲の広い氏の面目躍如である。

 現在,杉山氏は当院の画像診断部の顧問として第一線の日常診療に携わっていただいている。最近も教育用のDVDの製作,講演と,依然として八面六臂の活躍である。当院の至宝でもある。


2008年早春
浜松南病院 消化器病・IBDセンター長
花井 洋行