放射線は電磁放射線と粒子放射線があり,そのいずれも人間の五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)に感じない。また,その存在を人間が直接知ることができないもので,それを知るためには放射線を五感で認識できる形に変換しなければならない。
放射線の発見は,1895 年にドイツの物理学者であるレントゲンがX 線,1896 年にフランスの科学者であるアンリ・ベクレル(Henri Becquerel)がウランからの放射線の発見で始まる。その当時の放射線を検出する手段として利用されていたのは,写真乾板をはじめ,シンチレータ(ZnS の結晶粉末を塗布した板),電離箱,霧箱,ガイガー管(Geiger)などであった。これらの検出器の多くは現在でも使用されているが,当時の放射線研究に重要な役割を果たした。
今日,放射線は医学をはじめ広い分野で利用されているが,これは放射線検出器の開発,計測技術の進歩に負うところが大きい。放射線計測では放射線を正確に測定することが重要で,放射線の性質・強度等により,それらに適した検出器,計測器の選択が必要である。そのためには,放射線に関する検出原理,検出器の特性,計測方法等の基礎的知識をある程度知ることが必要である。
放射線基礎計測学は放射線の計測に必要な基礎から応用まで広範な内容を含んでおり,それらのすべてを理解することは容易でない。しかし,本書は特に医療放射線に関わる計測法を中心に分かり易くまとめたものである。診療放射線技師を志す学生はもとより,医科学生,医療放射線の現場に従事する医師,診療放射線技師およびその他多くの医療技術者の手引き書,参考書,あるいは教科書として利用して頂ければ,筆者らの望外の喜びである。
また,できるだけ懇切丁寧に分かりやすく説明したつもりであるが,実際に脱稿してみると不要な箇所あるいは不備な所など多々あったかとも思われるので,今後,読者各位の御批判,御叱正を得て加筆,修正するなど,今後ともより良い本に仕上げて行きたいと願っております。なお,本書は以下のような分担により執筆したものである。
第1章 放射線の物理的基礎三枝健二,入船寅二
第2章 放射線の検出および検出器三枝健二,福士政広
第3章 放射能の測定中谷儀一郎
第4章 放射線エネルギーの測定三枝健二
第5章 放射線量(率)の測定齋藤秀敏,入船寅二
第6章 放射線の線量分布測定齋藤秀敏
第7章 放射線防護関連測定機器福士政広
おわりに,本書の出版に多大のご盡力を頂いた医療科学社の関係者に厚く感謝申し上げる次第である。
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