厚生労働省はがん検診の受診率を現在の約19%から5年以内に50%以上に引き上げることを目標に掲げた。日本の死因の第1位は悪性新生物,すなわち“がん”であり,この最終診断は組織学的検査によって行われる。一方,細胞診検査は子宮癌や肺癌をはじめ,早期の検査方法として,これまで早期発見,早期治療に貢献してきた。
近年,生活様式が欧米化し,乳癌,大腸癌が増加傾向にあり,また従来の採取法に加え,乳腺,甲状腺,唾液腺領域では穿刺吸引細胞診が導入され,その結果,癌の発見・治療に大きく貢献している。上述のように細胞診検査は癌細胞,異型細胞,ウイルス感染細胞などをスクリーニングする重要な検査部門であり,組織学的検査に匹敵する面を持ち合わせており,いまやこれらの診断には細胞診検査は必要不可欠であるといえる。
現在,全国には臨床検査技師を育成する機関として大学,短期大学,専修学校が約66校あり,一学年の総学生数は約3300人である。また,学生の多くは国家試験に挑戦するが,国家試験問題も細胞診に関する文章問題や写真問題が毎年数問出題されている。このために養成機関である大学,短期大学および専修学校では1,2年生時に細胞診断学の講義がカリキュラムとして組み込まれているが,その際の教科書には自作のテキストや,細胞検査士を目指す人のために作られた教科書が使用されている。しかし,細胞検査士を対象にした教科書は難易度が高く,学生を対象としたものとしてはレベルが高いと判断する。
このような現状を踏まえ,今回出版した『臨床検査技師を目指す学生のための細胞診』は,細胞診断学を学ぶ初学者の学生諸氏が容易に理解できる教科書として企画された。
本書はすべてにカラー写真を取り入れ,掲載細胞像は従来の教科書に比し大きく,説明文も大きく読みすい点が特徴である。さらに重要な箇所には矢印を多く挿入してある。また専門領域別にシェーマを取り入れてあり,各部の名称を知り得るのに役立つものと思われる。練習問題では,これまで国家試験に出題された写真問題と類似した像を出題してあるため,国家試験対策および自己学習として参考になると考える。
本書は3部構成からなり,第1章は総論,第2章は各論,第3章は練習問題からなっている。第1章の総論では細胞の構造,検体処理,染色,悪性細胞の判定基準,パパニコロウ分類,第2章の各論は子宮頸部・体部細胞診をはじめ,呼吸器,体腔液,泌尿器,乳腺,甲状腺,唾液腺,リンパ節,肝・胆・膵,肉腫,その他の細胞診を掲げてある。第3章では練習問題として40問のスペースを設けた。
執筆者のほとんどは,臨床検査技師を養成する機関の教員・技官で日本病理学会認定病理専門医,日本臨床細胞学会認定の細胞診専門医,日本臨床細胞学会認定細胞検査士であり,全国の第一線で活躍されている人たちである。
最後に本書を出版するにあたり完成までいろいろお世話いただいた医療科学社・古屋敷信一氏,齋藤聖之氏をはじめ関係各位には心よりお礼申し上げます。
2007年10月
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日本医科大学付属病院 病理部
土 屋 眞 一 |
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