医師卒後臨床研修に関しては,以前より 2年以上の義務年限が明記されていたが,その詳細に関する特別の規定はなかった.しかし,医師の臨床レベルの向上への社会的要請が高まり,研修内容を詳細に規定して,全国レベルの統一的臨床研修制度が平成16年度より導入された.これらの臨床研修医は,学部学生と,専門領域を目指してトレーニングを受ける研修医との中間的存在となり,自らの興味や将来の専門とは無関係に,幅広い分野の知識と実地経験を積む必要がある.指導する側も,学部学生や専門研修とは異なる到達目標,指導体制を組む必要が生じてきている.
臨床研修医を対象とした本書の出版は,このような状況のなかで,非常に時宜を得たものと思われる.種々の教科書が出版されているが,従来は学部学生を対象としたものか,あまりに専門的すぎるものが多く,新臨床研修医を対象としたものはいまだに少ない.研修理念にも記されている「負傷又は疾病に適切に対応できるよう,基本的な診療能力を身に付ける」ためには,重要な疾患を見逃すことなく適切に診断する能力を養い,およびその背景となる疾患を充分理解して,専門医による治療へと引き継ぐことが大切である.このような観点から,本書では,このような目標達成のために,症例呈示を中心とした実践的な画像診断と病態の理解に重点をおいた内容になっている.
診断における画像の重要性については,中枢神経系疾患にかぎらない.しかし,CTスキャンやMRIの開発に伴って,中枢神経系の画像診断はもっとも進歩した分野のひとつであろう.特に,部位診断に留まらず質的診断におけるMRI技術の発展には目を見張るものがある.血管や血流情報,MRSなどの化学物質の同定,白質線維の走行,機能的MRI(functional MRI),細胞内浮腫情報,など枚挙にいとまがなく,日進月歩の時代である.本書は,このようななかで,臨床研修の期間にぜひとも学んでいただきたい疾患の重要事項を中心に,診断に必須であるmodalityに絞ってまとめてあり,専門医でなくとも理解しやすい内容となっているのが特徴である.
執筆者は,いずれも臨床の現場で活躍されている神経放射線科医,脳神経外科医,神経内科医の先生方である.日常臨床で蓄積された経験が随所に述べられ,学生向けの教科書では得られない実践的知識が記載されている.短期間で幅広い内容を習得しなければならない臨床研修医の方々にとって,本書がお役に立てば編者の喜びとするところである.
最後に,大変お忙しいなかを時間を割いて執筆していただいた諸先生方に深謝するとともに,編集にご尽力いただいた齋藤聖之氏はじめ医療科学社の皆様に感謝いたします.
2008年 2月
川原 信隆 東京大学医学部附属病院 脳神経外科 准教授
青木 茂樹 東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授
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