自序:チェックポイント X線撮影と画像評価

 本書は,当院で行われているX線撮影マニュアルと時間外の救急医療現場でのX線撮影の実践をもとに,救急医療,時間外撮影に携わる診療放射線技師に必要な知識と医療事故防止を目的に作成した書である.特に時間外撮影については技師1人での対応が一般的で,「適切な状況判断」「撮影から画像チェック」「結果の伝達・確認」が重要である.

 しかし,最近の救急医療における医療事故などの報道に接し,救急現場で撮影された画像情報の扱い,診療放射線技師のあり方に疑問を感じてきた.そこで災害・救急医療を政策医療として掲げ,24時間365日救急医療を実践している診療放射線技師として,何らかの発信ができればと思い続けていたところ,全国国立病院療養所放射線技師会・編による『患者さんのために知っておきたい―画像診断情報100』と題した著書が発刊された(2006年3月,医療科学社刊).同書刊行のきっかけは,東京都内の病院で,腸がねじれて急激に悪化する腸閉塞により5歳の男児が亡くなった医療事故における診療放射線技師の対応について,救急医療の一端を担っている診療放射線技師として,腹部の撮影を担当しながら撮影した画像情報を医師へ伝達できなかったための事故であったという無念さから,二度とこのようなことを起こさないようにとの思いで編集されたと序文に記されている.同書は部位別による100症例の画像をもとに,検査フロー,ワンポイント,必要な対応事項,緊急対応事項でまとめられた良書でもある.

 私どもも同様な思いで,一番はじめに画像を手に取る職種として,画像の訴えを医師に伝えられる,伝えなければならない職種であるとの思いから,月例の勉強会で「イメージ・インフォメーション」と題して,時間外の撮影を対象とした撮影のポイントについて多くの症例について検討を加えてきた.そして救急医療現場における「適切な判断」「撮影から画像チェック」「結果の伝達・確認」について整理し,診療放射線技師が救急医療に携わる心構えについてまとめた.その結晶がこのたび『救急医療・当直現場で役立つ――チェックポイント X線撮影と画像評価』として出版されることとなった.災害・救急医療の政策医療業務に携わる立場として,念願の「救急医療・時間外撮影」に必要な知識と「医療事故防止」について発信ができる達成感で一杯である.

 これまでは救急・当直の医療現場において,診療放射線技師がX線写真の情報を医師に伝えるのは勇気がいることであったが,チーム医療,医療事故防止を推進するには必要不可欠な行動であり,これからはチーム医療の一員として本書を活用して,画像が訴える所見を伝達・共有する実力を身につけ,診療放射線技師が医療事故防止に努める職種として位置づけられる一助となれば幸いである.

 本書を生かすも殺すも,救急・当直の医療現場に携帯して活用していただき,X線写真の所見を医師に確実に伝えられることにある.結果として重大な医療事故の発生を防ぐことに大いに役立つものと確信している.

 末筆になりますが,本書発刊にあたり過分な推薦のお言葉を東京労災病院技師長・骨軟部診断情報研究会会長の小林満先生より,また貴重な監修のお言葉を当院院長の辺見弘先生に頂き衷心より感謝致します.加えて,本書を作成するにあたり所見のとらえ方,医師と技師のかかわりについてご指導頂きました当院中央放射線部部長の倉本憲明先生には大変感謝いたしております.さらに,本書を作成するにあたりご指導とご協力を賜りました医師の皆様とわがスタッフに感謝するとともに,本書出版にご尽力頂きました医療科学社・古屋敷信一社長,齋藤聖之氏はじめ出版社の皆様に深謝いたします.


2007年2月吉日
独立行政法人国立病院機構災害医療センター
中央放射線部 技師長  大棒 秀一