シリーズ 序:超実践マニュアル MRI

 医療に従事するすべての技術者は,大いなる使命を自覚しなければなりません.なぜならその使命とは,“科学の進歩による恩恵を,病に苦しむ患者に還元すること”にほかならないからです.

 近年の医療技術の進歩は目を見張るものがあり,その進歩に対応すべく学会をはじめとして多くの研修会や勉強会が開催され,また多種の書籍が刊行されています.しかし,それらの書籍では臨床例は提示されていても,どのような設定で得られた画像かが不明なものも多く,そのまま実践に移すことが困難な場合も多々見られます.いまこの時代に求められているのは,急速な進歩のなかで本当に役に立つ実践の書ではないでしょうか.

 医療界全体を見渡しても,社会経済の混迷を反映して,診療報酬の改定に端を発した大きな構造改革を余儀なくされており,経済を重視しつつ高度な医療が要求されはじめました.医療行為のあり方とその質が問われる時代が到来したのです.
 このような状況で,診療放射線技師の業務はより一層高い専門性を要求されると同時に,多様化への柔軟な対応も求められています.臨床の場では,24時間体制で高度な医用画像を求める声が高まっています.これらに対応するには専門的な技量を持った技師をあらゆる分野に24時間確保することが必要ですが,現実的には不可能です.また,有能な人材を偏りのないバランスの良い技師へと導くことも重要です.このため多くの医療施設では,業務のローテーション制を取り入れ,あらゆる要求に対し最低限のレベルを確保して対応しています.しかし,そのレベルに問題が生じないわけがありません.

 私たちは「最低限のレベル」をいかに上げるかが焦眉の課題であると認識し,本シリーズにおいては,理論より実践を重視しました.その力点は,個々の施設でできうる最高の検査を行うための方法論を,装置の性能までも考慮に入れ,初学者にわかるように体系的かつ具体的に提示することに注がれています.本シリーズは出発点であり,本シリーズを礎として豊な未来が構築されることを願い信じています.このシリーズが私たちの明日に架ける橋だと自負しています.

 また,このシリーズが大いなる気概を胸に秘めた新たな医療人たちの良き糧となり,多くの患者のために貢献できることを心より祈ります.

 最後に,本シリーズの出版にあたって医療科学社の方々を始めとして多くの分野の方々のご協力・ご助言・示唆をいただきました.すべての皆様に深く感謝の意を表したいと思います.


2006年3月吉日
船橋 正夫