医療施設のIT革命が始まりました.医療情報室と呼ばれる過去に医療施設には存在しなかったセクションが新たに加わり,いまやネットワーク技術は病院経営に欠かせない重要な要素となろうとしています.しかし,この分野の専門家はいまだ少数であり,医療そのものや医療現場を理解しつつネットワークに精通したエンジニアは一握りという状況が続いています.この状況を踏まえて医療スタッフを眺めたとき,ITの一番近くに存在するのが診療放射線技師たちです.高性能な画像診断機器や治療装置を駆使する彼らに期待が集まるのも当然といえば当然です.逆に診療放射線技師が最も危機感を持ってIT時代をとらえていると言うことができるかも知れません.
さて,“マルチモダリティシンポジウム VERSUS”という診療放射線技師を対象とした研究会があります.この研究会は現代医療の状況を真っ向から受け止め,急速な科学の進歩のなかで在るべき医療技術者の姿と技術論を模索し,臨床に直結した議論を展開してまいりました.そして,その活動の一環として“超実践マニュアル”シリーズが上梓されました.研究会が出版を行うという異例の展開のなか,MRI,CT,RIと臨床に即した分野が順次網羅され,初学者のための入門書として大きな反響を呼びました.この流れのなか,満を持して登場するのがこの医療情報実践マニュアルです.一見畑違いの感は拭えませんが,VERSUS世話人会として,いまこの時代(とき)に最も医療界に必要な書を世に送り出すべきであるという結論に達したのです.
本書の視点は,多くの施設で医療情報分野の矢面に立つことを余儀なくされた“すべての医療スタッフ”に注がれ,彼らをサポートする入門書として企画されました.本書では,医療関係者には“電子カルテやフィルムレス導入計画の具体的なポイント”を,企業スタッフ(SE)やすべてのベンダの皆さんには
“臨床現場のユーザーの思いと医療のなかのニーズ”が提示されています.現在のネットワークの姿を映し出したあらゆる医療関係者必読の書だと自負しております.
執筆陣は医療情報に関わる病院職員からベンダスタッフ,SE,企業のシステム設計者まであらゆる立場で日本の医療情報を支えてきた,臨床現場のわかる皆さんにお願いしました.
まさに,日本の医療界におけるネットワーク経験の集大成がここにあります.
電子カルテやフィルムレスは決して安価なものではありません.それゆえにその導入に失敗すると,以後数年は臨床現場の業務の足枷となり,多くのスタッフに多大な負担を強いることになります.その意味では導入時にどこまでリアルに検討できるかがすべての鍵を握っているといっても過言ではありません.本書が医療に関係するすべての人たちの良き糧となり医療界のIT革命に寄与することを祈念して序とさせていただきます.
本書の出版に当たっては,多くの皆さんのご協力を頂きました.特に企画段階から東奔西走していただきました医療科学社の齋藤聖之氏,代表取締役古屋敷信一氏に心より御礼申し上げます.
すべての医療関係者の努力がすべての患者さんの幸せとなって結実することを祈って筆をおきたいと思います.
2007年8月吉日
船橋 正夫
大阪府立急性期・総合医療センター
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