序:最新・X線CTの実践

 現代医学の原点であるヒポクラテス(BC460〜377)の誓いは,医療をつかさどる人びとにとって,いまでもバイブルである.そのヒポクラテスの言葉のなかで有名なのが,「人生は短く,芸術は長し」である.この「芸術」は,いわば「医術」を示しており,占術・戦術・学術・技術を総称したものであり,「生命は短く,学術は永い」が本当であり,この「学術」=「医術」が最も正しい訳といえる.

 そのヒポクラテスの時代より2400年が経過して現在に至っている.医学の進歩は,幾多の人びとが苦労に苦労を重ね,一歩一歩前進してきたものである.そしてレントゲン博士がエックス線を発見し,それ以後,急速に医学は発展を遂げてきた.

 そして1972年,ハンスフィールドにより開発されたX線CTは,ますます進化を遂げて現在に至っている.特に三次元画像処理が可能となった今日では,診療放射線技師が単なる良い写真を撮るだけの時代は終わり,いかに診断をするかという努力が必要となってきた.つまり,当初は骨の解剖のみ理解していればそれでよかったが,現在では血管そのものが3D-CTで鮮明に見られる.実質臓器も映し出される状況は,まさに解剖学・病理学を合わせた病態学の修練が必要であり,医師と技師の境界はなくなっているのが現実である.

 このような状況のなかで,チーム医療が必要とされる今日,まず最初に出てくる画像に接するのが診療放射線技師である.その技師が最も早く異常を見つけられる立場にいる以上,技師には第一次読影者としての責任がある.その責任がある以上,技師はより高度の学習とトレーニングを研鑽しなければならない.それが可能となってこそ,チーム医療が可能となり医師と技師との隔たりがなくなり,お互いにCo-Worker として人の命を助けられる医療人として成長するのである.また,熟練した技師は専門の医師と同等の力を蓄えている故,医師支援への努力も惜しむべきでない.

 昨今の医療ミスのなかで,医師が初期の画像の的確な情報を持たなかった結果,見落としとして訴訟になる場合が多い.私は病院管理者として,医療過誤を少なくするために,チーム医療で診断するなかで個人が感じとったこと,疑問をもったことを率直に話し,意見を述べ,口に出して言うことを各スタッフ個々人に心がけさせている.医師だから,技師だから,看護師だからという遠慮はなしに,それぞれがプロフェッショナルとして診断し,意見を出し合うことが,医療ミスを少なくする方法と考えるからである.それによって,見落とし事故は激減するはずである.

 ハードウェアの発達,特にX線CTの発達は診療放射線技師をも発達させることであり,ハードもソフトもともに切磋琢磨していく必要がある.今後も技術はいま以上に無限に発達,発展していくであろう.まさに「人生は短し,芸術は長し」「生命は短し,医術は永し」である.


2006年7月
特定医療法人厚生会 木沢記念病院
病院長・理事長
山田 實紘