発刊にあたり:診療放射線技師に知ってほしい画像診断-胸部

 胸部画像診断領域における近年のトピックはなんといってもCT,MRIの登場であろう。それ以来,われわれ放射線科医と診療放射線技師はともにこれら新しいモダリティに対応するために文字通り刻苦勉励をしてきた。
 本書はもともと,2002年の日本放射線技術学会第58回総会学術大会(当時JMCP)の教育講演(5)「放射線技師に知ってほしい画像診断」をベースに企画されたものである。会場はたいへんな熱気に包まれ,診療放射線技師の臨床に対する関心の高さが感じ取れたという。
 このように,診療放射線技師の意識が高まる一方で,筆者は,造影CTやMRIが必要な症例の検討,MRIの有用な使い方,などの議論とはほど遠いところで多くの画像検査が施行されている現実を目の当たりにした。それは,遠隔画像診断サービスを行う会社の依頼により,さまざまな施設から送られてきた画像を見たときのことだ。そこでは,FOV,ウインドウ幅やウインドウレベルの不適当例,造影効果不良のCTやMRIなどが多く見られた。これらは,筆者にとって大変な驚きであったが,それがこの本の著作を引き受けた動機のひとつである。
 今後さらにCTやMRIの性能が向上し,検査時間が短縮されるとともに膨大な画像情報も得られるであろう。画像診断力を持った診療放射線技師の育成,臨床現場での活躍はなくてはならない。筆者も昭和大学診療放射線専門学校で多くの授業を受け持っているが,画像診断の授業の重要性が年々増加しており,国家試験においても画像診断の問題が加えられるようになってきた。診療放射線技師が画像診断レポートに関与することには大きな問題もあるが,良質な画像診断検査のために,画像診断を学ぶ必要性は誰もが認めている。
 本書では胸部の代表的疾患を多く取り上げ,そのCTやMRI画像の特徴を胸部単純写真と比較しながら解説し,診療放射線技師としての技量を発揮すべき点を“画像のゴール”としてまとめた。どこから開いても読める,使いやすく,肩肘の張らない本を目標とした。
 最後に本書が刊行をみるに至ったのは,医療科学社出版部の齋藤聖之氏の励ましのおかげである。また,ともに原稿を執筆してくれた当院スタッフ(掲載順),浮洲龍太郎(放射線科講師),藤澤英文(放射線科),武中泰樹(放射線科助教授),門倉光隆(呼吸器センター助教授),鈴木美奈子(放射線科)ならびに作成に協力してくれた当科秘書の久良有紀にはこの場を借りて謝意を表すものである。


2005年春  櫛橋 民生